新地方公会計制度と区財政の持続可能性
まずは、先日の台風10号により、岩手県や北海道に甚大な被害が発生しました。衷心より亡くなられた方々の御冥福をお祈りするとともに、被災された方々にお見舞いを申し上げます。
それでは、杉並区議会公明党の一員として、公会計について質問をいたします。
初めに、直近の区の財政見通しを確認させていただきます。
急速に増加している保育需要や特別養護老人ホーム等の施設建設のための用地確保など、近年、区が直面している課題が顕在化するにつれて、区財政の逼迫度が急激に高まっているように感じています。区の財政状況の変化と今後の中期的な財政見通しを、定量的なデータも交えてお示しください。
地方公共団体の会計制度は、従来、単式簿記・現金主義に基づくものでした。平成19年に総務省より新地方公会計制度が公表され、複式簿記・発生主義という企業会計の要素を取り入れた制度への改革が進められてきました。フルコストによる財政の見える化や、資産、負債の改革を進めるツールとして、全国の自治体において財務書類の整備が行われてきました。
財務書類とは、企業や団体の活動を金銭的な数字で表現したものです。その点で、民間企業の目的である利益は明確に数字であらわせますが、地方公共団体の目的である住民の福祉増進の効果は、客観的に算出しにくいという違いがあります。さらには、企業では経営判断により柔軟に費用の支出が可能ですが、地方公共団体は議決を経た予算の範囲でしか支出ができません。また、地方公共団体には、民間企業にはない出納整理期間という独特の会計制度もあります。
このように民間企業とは目的や制度においてさまざまな違いがある中でも、杉並区が地方公会計基準に基づく財務書類を作成、公表することの意義について、区の所見を伺います。
現在の公会計基準は、基準モデルと総務省方式改訂モデル、そして国に先んじて取り組んでいた東京都会計基準の、3つのモデルがあります。これらのモデルを統一化する作業が国のほうで約4年半をかけて進められてきました。そして、平成27年1月に全国の自治体に対して総務大臣通知が出され、新たに設けられた統一的な基準に基づく財務書類を、原則、平成30年3月末までに作成することが求められました。
杉並区では、基準モデルに基づく財務書類を平成20年度決算より作成、公表をしていますが、統一的な基準については、来年、平成28年度決算からの導入を目途に現在作業が進められています。改めて、基準の変更に向けての区の取り組み状況及び今後の予定をお聞かせください。
新基準への主な変更点としては、報告主体に、一部事務組合や広域連合が対象に加えられます。また、資産評価においても、有形固定資産は、これまでは再調達原価で評価し、事業用資産の土地は3年ごとの評価がえを行ってきたのに対し、新基準は、原則として取得原価で評価し、再評価は行わないことになります。そのほか、各財務書類の記載形式や資産と負債の会計処理の方法等においても、幾つか変更が加えられます。
一方で総務省は、各自治体がそれぞれの創意工夫によって説明責任や行政運営に資する財務書類を作成する余地を残しており、そういう趣旨から、東京都会計基準を選択することも可としています。
東京都基準は、行政コスト計算書に税収を含めた原則全ての収入と費用を計上し、行政コストと税収等との対応関係をあらわすことに重きを置いている点が特徴的であり、企業会計や国際公会計基準(IPSAS)により近い考え方です。片や、統一的な基準では、直接の対価性がない税収などの収入は純資産変動計算書に計上し、行政コスト計算書には計上しません。
統一的な基準と東京都基準、それぞれの長所、短所の比較において、区が東京都基準を採用しない判断に至った理由をお聞かせください。また、23区他区の状況はいかがでしょうか。
仕訳方法の選択について伺います。
歳入歳出データから複式仕訳を作成する方法には、期末に一括して行う期末一括仕訳方式、そして、取引の都度、伝票単位ごとに行う日々仕訳方式の2種類があります。総務省としては、仕訳の検証精度が高くなることや、より早い財務書類の作成が可能になることなどから、日々仕訳が望ましいとしています。しかし、貸借対照表と固定資産台帳の相互照会ができ、事業別、施設別等の細かな単位でフルコスト情報による分析が可能であれば、期末一括仕訳でも差し支えないという見解です。
6月の総務財政委員会で、区は、期末一括仕訳方式を採用し、財務会計システムの更新時期に合わせて日々仕訳への移行について検討するとの考えを示しました。仕訳の方法について区がこれまで検討してきた内容、そして、当面、期末一括仕訳を選択した理由及び日々仕訳への移行に関する考えについてお聞かせください。
関連して、公会計システムの変更対応について伺います。
本年度一般会計補正予算(第3号)において、新基準への移行に伴うシステム更新、運用及び支援業務委託に要する経費504万円が計上されました。国においては、統一的な基準による地方公会計の整備に係る標準的なソフトウエアを開発し、各自治体に無償で提供しています。しかし区は、国からの無償提供は受けずに、現行の公会計システムをバージョンアップして対応する経費を同補正予算に計上しました。機能面、費用面においてそれぞれどのような比較を行い、今回の判断としたのでしょうか、御説明をお願いします。
固定資産台帳の再整備について伺います。
固定資産台帳とは、固定資産を、取得から売却等の処分に至るまでの経緯を個々に管理するための帳簿で、道路、公園、学校等、区の全ての固定資産について、取得価額や耐用年数等のデータを網羅的に記載したものです。本区の固定資産台帳は基準モデルを導入する際に作成されました。
新基準への移行に伴い、評価方法が時価から取得原価へとなることはさきに述べたとおりです。取得原価が不明なものは再調達原価で評価し、それも不明な道路、河川及び水路の敷地は備忘価額1円とすることになります。また、現行、耐用年数が異なる設備と建物本体が1つの資産として登録されているのが、それぞれの耐用年数に応じて登録をし直すことになるなど、固定資産台帳の再整備にさまざまな対応が求められています。さらに、建物等の償却資産に対して行った耐震補強や改良補修の工事費については、現行では維持補修費としてコスト計上されるのに対し、新基準では、資産価値が高まる、あるいは耐久性が増すと認められるものは、資産形成として純資産変動計算書に計上するという選択肢も加わります。
区はこれまで、固定資産に対する耐震補強や改良補修工事等を数多く行ってきておりますが、従前どおり費用として計上するのか、資産形成として計上するのか、区としての運用基準を設ける必要があると考えます。所見を伺います。
続いて、公会計情報の活用について伺います。
公会計は、財務書類を作成することが目的ではなく、行財政運営の改善に現実に役立てていくことこそが重要であると、私自身これまでも繰り返し主張してきました。最も訴えたい点であります。
区では決算報告の際に、公会計上の主な財政指標や建物の減価償却の進捗状況、行政サービス費用の推移などを区政経営報告書に掲載しています。また、毎年度幾つかの事業を抽出し、事業別行政コスト計算書も作成しており、人件費や減価償却費などのフルコストを収益性や利用率の経年変化の情報とともに分析し、結果を公表しています。特に、保育園運営や地域集会室維持管理、児童館、学童クラブの運営など、幾つかの事業においては毎年継続的に調査を行っており、課題の明確化や検証作業を行うのに有益な指標であると思います。
今後は、公会計情報の活用範囲をさらに拡大し、例えば行政評価制度や予算編成過程等と関連づけるなど、区政運営のマネジメントツールとして生かすことができると考えますが、所見を伺います。
また、区立施設再編整備計画に固定資産台帳などの会計情報を盛り込んだり、施設別の貸借対照表を作成したりするなど、より深まった検証作業ができるのではないでしょうか。見解をお聞かせください。
公会計情報は財政分析や財政ルールにも活用できます。現在区では、財政健全化と持続可能な財政を確保するための5つのルールを定めており、その1つ目に挙げているのが経常収支比率80%以内を目指すです。唯一具体的な財政指数上の目標を設定したルールであります。
経常収支比率は財政構造の弾力性をあらわす指標であり、一般的に70から80%が適正水準とされています。この水準を超えると、その団体の財政は弾力性を失いつつあると考えられ、区の80%以内というルールも、これに基づいていると理解します。区がこのルールを定めた23年度以降27年度までの5年間の決算の実績では、経常収支比率は、82.7%、82.8%、82.5%、79.8%、79.7%と推移しています。ただ、経常収支比率は、1年間のフローの数値だけを取り上げ、決算に評価を行う事後的な指数です。また、この5年間で本区の積立基金は総額で300億円から410億円へと100億円以上積み上げてきましたが、このことは経常収支比率の推移からは読み取れません。こうした経常収支比率を事前統制的なルールの指標とすることについて、私は以前にも問題提起をさせていただきました。
他の主な財政指標も、例えば実質収支比率も基本的には同様で、単年度のフローの事後的な結果をあらわしたものです。また、公債費負担比率についても、ストックとしての区債残高あるいは積立基金の状況は捉えられません。これらの財政指標はそれぞれの財政局面をあらわしたもので、それぞれ意味があるものですが、全体を包括したものではありません。
公会計は、ストックとフローの両面から捉えた、より包括的な財務情報です。将来世代に残る資産はどれぐらいあるか、将来世代と現世代の負担の分担は適切か、財政に持続可能性はあるのか、行政サービスは効率的に提供されているのかなど、多方面にわたる角度からの財政分析や、長期的な視点による財政上の意思決定が可能になります。
例えば、資産老朽化比率と将来負担率を組み合わることにより、資産の老朽化度合いと、それに対応できる財政状況をあわせた指標として把握できます。あるいは区債残高から償還に充当可能な基金の残高を差し引いた実質的な債務の額に対して、資金収支計算書における業務活動収支の黒字分等の財源の比率を算出することによって、将来の負担額と現在の財政力との関係性が数値化され、結果、事前統制的な活用が可能になります。財政状況の分析に公会計情報を活用してはいかがでしょうか。
また、区の財政運営の原則、ルールについても、財政構造の時代的な変化を念頭に置き、事前統制的な要素も加え、さらには、短期、中長期といった時間軸も考慮するものを再検討してはいかがでしょうか。所見をお聞かせください。
関連して、経常収支比率80%の目安についても申し上げたいと思います。
総務省の地方財政の健全化及び地方債制度の見直しに関する研究会の報告書には、昭和44年発行の「財政分析:市町村財政効率化の指針」からの引用を通して、80%の根拠に関する記述があります。それは、昭和42年度の全国の自治体の財政を対象とした調査により、経常収支比率が、都市にあっては73.3%から83.9%の間に、町村にあっては67.7%から84%の間に分布している統計が得られたことから、少なくとも75%程度におさまることが妥当と考えられ、これが80%を超える場合は、その財政構造は弾力性を失いつつあるというものです。
もしこれが80%の根拠であるならば、既に50年もの月日がたっています。今日において経常収支比率の目安をどのように見るか、区にもぜひ研究していただきたいと思います。
固定資産の保有と活用における公民連携
次に、固定資産の保有と活用における民間との連携について伺います。
財政面からは、区債、基金の残高といった金融資産に目が行きがちですが、区が保有する資産は、当然ながら金融資産のみではありません。平成27年度の単体の貸借対照表によれば、区が保有する全体の1兆5,000億円の総資産のうち金融資産は702億円、比率にするとわずか4.7%です。残りの約95%、1兆4,300億円が非金融資産であり、その内訳は、約1兆円がインフラ資産、4,000億円が有形固定資産となっています。
そもそも区が資産を保有することはどのような意味を持っているのでしょうか。国際財務報告基準によれば、資産とは、過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源と定義されています。簡単に言うと、資産とはお金を生み出すものです。この定義を公会計に当てはめると、それを持っていることで将来お金が入ってくるもの、あるいはお金が入ってこなくても行政サービスの提供を可能にするものであります。
大量の固定資産をいかに適切に保有し、活用していくかは、区政運営上、非常に重要な課題です。現実に、今後さらに需要が拡大する保育園、高齢者や障害者等の施設整備においても、土地建物が最大の課題です。そして、その取得、保持には多大な費用の発生が伴います。財政負担を極力抑えつつ、公共施設や行政サービスの効果的かつ効率的な整備、運営を行うためには、公民連携パートナーシップ、PPPあるいはPFIなどを通した民間の資金やノウハウの活用は有効な選択肢の1つであると思います。本区においても、施設の維持管理や運営には、指定管理者や民間委託等は相当浸透してきていますが、設計や建設までをも含むPFI事業は、リニューアルオープンして10年を迎えた杉並公会堂と幾つかのケアハウスのほかは、余り大きな流れとはなっていないようです。
公会計情報の開示を充実させることで民間との接点がより多くなり、結果、区にとっても有益なアイデアに結びつくことも考えられます。区税収入は減少する一方で行政ニーズは拡大していく時代にあって、最少の経費で最大の効果を実現する方法を幅広く積極的に研究していくべきではないでしょうか。施設の設計、建設、管理運営等、行政サービスの展開におけるPPP、PFIといった民間の資金、ノウハウの今後の活用についての区の考えをお聞かせください。
本日は、新地方公会計制度の基準の変更に伴う本区の取り組みと公会計基準の活用についてるる質問をさせていただきました。特に活用に関しては、短期間で成果が目に見える形であらわれるものではなく、多くの試行錯誤を伴い、深い分析と研究と施策が求められるものであると思います。今後も区が真摯に、粘り強く取り組んでいかれることを期待して、私の質問を終わります。
ありがとうございました。
答弁
理事者の答弁を求めます。
区長。
〔区長(田中 良)登壇〕