杉並区の財政状況と公会計制度改革の方向性、将来リスク
本日は、杉並区議会公明党の一員として、財政運営について質問を行わせていただきます。
地方自治体の財政運営に関する改革は、今一つの転換期を迎えていると言えます。これまでは自治体財政は、予算の策定から執行、決算に至るまで、単年度のお金のフロー情報に基づくものでありました。しかし、これからはストックの状況をより勘案し、行財政の運営や分析を過去から未来への時間軸に立って遂行していくことがより重要視されることになります。それは、地方公共団体の財政の健全化に関する法律(以下健全化法)や、公会計制度の改革にあらわれています。
平成十九年六月に公布された健全化法は、新たな自治体の財政再生制度として、約五十年ぶりの見直しが行われました。実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の従来のフローの管理指標に加え、将来負担のストック指標である将来負担比率も導入されました。
指標の公表は全国の自治体で昨年から行われておりますが、ことしの施行により、今年度の決算における指標のうち、いずれかの比率が一定の水準を上回った場合には、財政健全化計画などの策定や、公認会計士などによる個別外部監査の要求が義務づけられます。
フローとストックの両方を網羅した指標の導入により、現在の資金繰りと将来への負担先送りの状況を把握する枠組みができました。フロー指標だけであれば、支出や負担の多くを将来に先送りし、数値をよく見せることは可能ですが、四つ目の将来負担比率により、そのような可能性にガードがかかることになります。
ちなみに当区の昨年度の実績では、連結でも単体でも実質赤字がなく、実質公債費比率も三・四%と非常に低い。また、充当可能な財源が将来の負担額を上回り、将来負担比率が生じないという、健全化法で定める早期健全化や財政再生の基準からはほど遠い、良好な結果でありました。
公会計制度についてもことしから抜本的な改革が行われ、すべての自治体において、民間企業と同じように発生主義・複式簿記での貸借対照表、バランスシート、行政コスト計算書、純資産変動計算書、そして資金収支計算書の四表が作成されることになります。
これまでの公会計制度は、現金主義・単式簿記によって運営されてきましたが、これは議会による予算という、税財源配分の事前統制を確実に行うことを主目的として、このような形態が採用されてきました。しかし、将来世代に対して責任ある財政の効率化や適正化、資産、債務の管理と改革、また、住民に対する透明性向上等の必要性から今回の改革が行われました。
当区では以前からも複式簿記でのバランスシートは独自に作成、公表してきましたが、これは普通会計に基づく決算統計のいわば間接的なデータの組みかえによるものでした。ことしからは固定資産台帳をしっかりと整備し、区が保有する資産の実態が公正価値により詳細かつ正確に把握されることとなります。形式としては、総務省が示している基準モデルで行う予定となっています。
このような新しい局面を迎えている現在、杉並区の財政状況としましては、本年度末で減税補てん債の残高ゼロを達成し、区債全体としても二百四十六億円まで減少。一方、基金の合計は、本年度末で四百九十八億円。財政調整基金だけでも二百二十二億円まで積み立てられる見込みとなっています。そして経常収支比率や実質収支比率等の単年度のフロー指標も改善著しく、今後数年間は税収等の落ち込みにより収入面で厳しい状況が予想されるものの、財政的には健全な状態を保っています。
しかし、過去からの杉並区の財政状況の推移を見るにおいて、ここまで決して平坦な道のりではありませんでした。昭和六十年から平成三年のバブルの時代のわずか六年間程度で、当区の財政規模が急激に拡大しました。その後バブルの崩壊に伴い、平成五年以降は区税収入が大幅に減少。バブル時代までは歳入決算に占める区税収入の割合がおおむね五〇%以上であったのが、平成五年以降は四〇%台前半から三〇%台にまで落ち込みました。それと反比例する形で起債残高が平成三年ごろより激増し、平成十二年には九百四十二億円にまで達しました。逆に、財政調整基金は残高が平成十一年に十九億円まで減少し、その間、経常収支比率も最大九四・一%にまで上昇してしまうという、バブル崩壊の後遺症による財政悪化に十年近く悩まされ続けてきました。
私は、当時はこの場にはいませんでしたが、悪化する財政と悪戦苦闘しながら決然と行財政改革を断行し、財政危機を乗り越えてこられた区長初め区役所職員の皆様のご努力に心から敬意を表するとともに、これからの区政運営の責任の一端を有する者の一人として、過去の事例をしっかりと学習し、教訓として十分に活用していかなければならないと決意をしているところです。
そこでお伺いします。バブル期から平成不況、そして今日に至るまでの区税収入の急激な変動と、財政の悪化から再生という一連の過程において、区の収支の構造上、また地方自治体としての制度上、どのような問題に直面してきたのか、約二十年間の総括と問題認識をお示し願います。
また、先ほど述べた現在の自治体財政と公会計制度の改革について、区としてはどういう考え方を持って対峙していくとお考えでしょうか。
さらには、これからの長期的な展望に立ったときに、公共施設等の区有資産や区の人口構成等、区財政にとってどのようなリスクや環境変化が考えられるのか、ご所見をお示しください。
杉並区独自の財政規律確保策と多治見市条例の評価
次に、財政規律確保の具体的な取り組みについて質問します。
先ほど財政健全化法に触れましたが、あくまでも同法は、自治体が致命的な財政危機に陥るのを防ぐための警戒ラインを二段階で設けているものにすぎず、そのような基準だけを判断材料にすると、気づかないうちに危険区域に達してしまうかもしれない。健全な財政状況にあっても、当区としての独自の管理指標を持って、計画や予算策定の段階から規律を遵守していく仕組みが必要ではないかと考えます。
岐阜県の多治見市では、多治見市健全な財政に関する条例、通称財務条例を平成十九年十二月に制定し、本年度から全面施行しています。
同市は、条例制定当時は比較的健全と言える財政状況にありましたが、過去にバブル崩壊の影響を受け、平成八年に財政緊急事態宣言を行うまでになった経緯がありました。そのときの教訓の上に立って、財政健全化法だけではなく、市独自の財政運営のルールを設けることによって財政規律を強化し、長期にわたる安定的な収支の均衡を目指して条例の制定に踏み切りました。
多治見市財務条例は、まず、財政運営の指針として、市の財政は市民の信託と負担に基づいていること、市の負債は現在のみならず将来の市民の負担でもあり、世代間の負担の均衡を図るべきであると定めています。さらに、計画的な財政運営を具体的に進めるべく、償還可能年数、経費硬直率、財政調整基金充足率という三つの独自に考案した指標と、従来の経常収支比率の計四つの指標で財政の健全化を判断するということを定めています。
償還可能年数とは、健全化法の将来負担比率に近いものですが、将来負担比率が負債を標準財政規模で除しているのに対し、負債を償還可能財源で除した指標を採用しています。このことにより、ストックベースでの健全性がより端的に示すことができるとの考えがあります。
経費硬直率とは、経常収支比率の分子から、過去に形成された公共施設等から受ける受益に対応する負担としての公債費を除いた、フローベースでの行政サービスに係る経費の硬直性をあらわしたものです。
財政調整基金充足率とは、財政調整基金の残高から災害復旧対策の見積もり費用を差し引いたものを、経常経費充当一般財源で除した数値です。
そして経常収支比率については、経費の硬直性という一般的な観点ではなく、資金の安定性を示すものとして位置づけられています。
これらの指標の算定時期についても、従来では決算の際に財政指標や健全化判断比率の数値を示すのに対し、財務条例では、事業規模の発散を防ぐことが目的とされているため、決算時ではなく計画策定時に指標の予測値を示すことに重点を置いています。
総合計画の基本構想には、歳入推計と歳出計画額、さきの財政判断指標の予測値が記載されています。
当区として、このように計画策定の段階から、それに伴って予想される長期的なフローとストックの財政状態をも管理していく仕組みについてどのように考えているのか、お聞かせください。
杉並区の財政情報開示の充実と宇城市の先進事例
次に、財政情報のディスクロージャーについて伺います。
杉並区においては、半期に一度「財政のあらまし」、そして決算に伴い財政白書「ざいせい」を毎年発行し、区の財政状況の公表に努めております。特に「ざいせい」に関しては、図表やキャラクター、簡潔なワンポイントの解説がちりばめられ、親しみやすい冊子として非常によくできていると思います。しかし、今後は一層、フローとストック両方の財務情報、及びそれに伴う行政サービスに関する情報を一元的に開示する徹底したディスクロージャーが重要となってくると思います。
熊本県に宇城市という、平成十七年に五町が合併して誕生した新しい市があります。そこでは、新しい市の資産の費用対効果を検証するための財務情報を取り入れた施設白書、及び財務、非財務の両方のデータを含んだ包括的な財務報告書、宇城市アニュアルリポートを作成、公表しています。
当区でも施設白書は作成されておりますが、宇城市の施設白書は、二百三十すべての公共施設について施設別のバランスシートと行政コスト計算書が作成されており、施設の利用状況等の情報を加え、現状把握を行っています。施設ごとの資産、負債の状況、人件費や減価償却費などを含めたフルコストをベースに分析した上で、個々の施設の財務情報を、図書館群とか観光施設群といったぐあいに同種のグループに分け、利用件数やコストなどの要素でマトリックス図を作成し、詳細な分析も公表しています。
また、宇城市アニュアルリポートについては、バランスシートや行政コスト計算書、純資産変動計算書などの財務情報や分析結果を詳細に掲載しています。
ここまでは当区の「ざいせい」とほぼ同じですが、アニュアルリポートでは、冒頭に、同市の行政運営上どのような分野にどのような点で公共サービスを展開するかという基本的な方向性を示した上で、将来に関する情報として、同市の中期財政基本方針の説明、中期財政計画に基づいて、十年間の予測バランスシート、地方債の発行と償還計画、公債費比率について十年間のシミュレーションを行っています。収支計画については、一般会計にとどまらず、各特別会計についても平成三十一年度までの予測計画を掲載しています。どこかの多国籍企業のアニュアルリポートと見間違えるほど非常に洗練された報告書となっています。
私も宇城市に視察に訪れ、財務担当者から詳しくお話を伺ってきましたが、情報の収集から分析と公表の内容について、大手監査法人の協力を仰ぎながら職員総出で取り組み、相当なご苦労があったそうです。このレポートを、今後は議会を初め市民等とのコミュニケーションにいかに活用していくかという課題は残されているものの、同市が財政に関する情報開示を非常に重視していることがよく理解できました。
慶應義塾大学の上山信一教授は、民間セクターが民事再生法やM&Aなどの経営改革の道具がここ数年で一気に充実してきたのに対し、行政の経営は改革のスピードが遅いため、積極的な情報公開をパワーソースとして改革を進めていかなければならない、公開する情報の中身のレベルに従って手の打ち方のレベルも上がっていく、そのように述べられております。
財政情報の開示の充実は、当区においてはどのような価値を生むとお考えでしょうか。
また、紹介した宇城市のように、包括的な年次報告書や資産、債務の情報を含んだ施設白書等のさらなる財務情報の充実についてどのような考えをお持ちか、所見をお伺いします。
減税自治体構想の評価、世代間負担の検証、行政評価の連動
最後に、減税自治体構想についても質問いたします。
自治体財政運営における長い時間軸に立った視点、発想という点から見れば、減税自治体の考えは究極の長期展望とも言える構想です。
先日、同構想研究会から出された報告書では、積み立てた資金の運用について、長期国債であれば、過去のデータから一・五%の利回りは確保できると見積もり、インフレ率との相対性でも、中長期的に見ればインフレリスクを吸収できると説明しています。その上で、仮に一・五%での運用であれば、十年後に一〇%、二十年後には一五%の特別区民税の恒久的な減税が計算上可能であるとの一つのシミュレーションが示されています。
時間のスパンを十年と見るのか、二十年、七十年、百年と見るのかにより、減税の規模やリスクの要因も変わってきます。また、スパンが長ければ長いほど、経済状況や行政の仕組みを先まで予測することが困難になります。しかし、現段階での最善を尽くして予測に挑戦する、変更を余儀なくされることも当然起こるでしょうが、その時点でまた最善の予測に修正する、その繰り返しを行うことが、実は行財政の運営において長期的な視点を涵養していくという効果もあるのではないでしょうか。
一方では、正の遺産に回す額を予算の約一割という考えが基本にあるようですが、今と将来の世代のそれぞれの受益と負担の適正化について客観的に検証し、合理的な考えに基づいて検討していく必要があると思います。そのためには、バランスシートでの負債の部における正味資産の割合、企業会計で言う自己資本比率のような指標で、返済が必要な財源と固定資産の状況を判断するのか、または一定の期間における複数年の予測バランスシートから、有形固定資産の額、減価償却費の累計額、区債や積立基金の財源額、正味資産の額等を織りまぜて独自の指標を考えるなど、さまざま方法があるのかもしれませんが、どのような方法で、今の世代と将来世代の受益と負担のバランスと、またその変遷を検証できるとお考えでしょうか。
また、構想では、現在のサービス水準を犠牲にしての積み立ては意図していませんので、そのことを担保するためにも、現在の行政サービスの有効性や区民満足度等から分析評価する行政評価をさらに充実させる必要があると思います。そして、その結果を予算や財政計画策定の過程に直接反映させるような仕組みへの改革も同時に検討されるべきではないでしょうか。行政評価と予算、財政計画の策定が直接連動するなどの制度の改革についてどのような考えをお持ちか、所見をお伺いします。
それ以外にも、報告書でも指摘されているとおり、行政改革のさらなる推進、積み立てと運用の体制、大規模災害時や、また現在のような急激な景気後退時における対応のルール等、具体化に向けて課題は多数あります。区として研究会の報告書を受けての率直な感想、そして具体化に向けての道のりは今の段階でどう計画されているのか、お示し願います。
今の日本では、行財政改革という言葉は、再建とか健全化とか、何か悪いものを立て直すという消極的な場面で使用されることが多いように思います。国を初めほとんどの自治体が借金体質にあることから、仕方がないのかもしれません。しかし、継続的な改革や優良な財政運営へ努力することは、決して消極的な場面にとどまらず、例えば今回の減税のように一つの競争優位、付加価値の形となることがあってもよいのではないか。もちろん地方公共団体の目指すところは住民福祉の増進であり、利潤追求を第一義とする民間企業とは目的が根本的に異なりますが、財政規律の維持が結果として区民の福祉向上に資するというモチベーションについては、区としてはいかがお考えでしょうか。
ソフトパワーによる人道的競争の時代、各自治体それぞれが知恵を絞り、特色を生かして、いい意味での住民に対するサービスの競争を行い、住民、国民に結果として恩恵をもたらす。杉並区もさらに魅力ある自治体になっていただきたい。
私もこれからもしっかりと研さんをし、尽力していくことをお誓い申し上げ、質問を終わります。
ありがとうございました。
答弁
理事者の答弁を求めます。
区長。
〔区長(山田 宏)登壇〕