平成22年9月10日 第3回定例会

杉並区のがん対策における役割と責務

中村 康弘

本日は、杉並区議会公明党の一員として、がん対策について質問を行わせていただきます。
 去る六月二十日に行われました杉並区主催の子宮頸がん予防セミナーに参加しました。産婦人科医・対馬ルリ子先生の講演とともに私の心に深く響いたのが、阿南里恵さんという女性の体験談でした。
 阿南さんは、五年前、二十三歳で子宮頸がんを経験されました。闘病生活当時における手術や抗がん剤治療の副作用など身体的な苦痛もさることながら、二十三歳という年齢で子宮全摘出せざるを得なかった精神的な苦しみなど、当時の彼女の心境について赤裸々に語っていただきました。人前で自身の体験を語ることに対しての葛藤を乗り越え、一人でも多くの人を救っていきたいとの彼女のけなげな思いに、私は心を打たれました。
 また、彼女のお母様のお手紙も紹介され、闘病で苦しんでいる里恵さんのそばで、かわってやりたいとの思いと、かわってやれない現実が毎日私を追い詰めたと、自分のこと以上に悩み苦しんだお母様の気持ちを拝し、涙がとまりませんでした。
 今日、国民の三人に一人ががんで亡くなり、二人に一人ががんにかかっています。がんは国民病であります。杉並区においても、平成十七年以降、がんが原因で亡くなった区民の方が年間千二百人を超えています。比率にして三十数%、二位の心臓疾患の倍以上の断トツのワースト一位という状況であります。特に五十代から七十代に亡くなられた区民の方の約半数が、がんが原因です。したがいまして、杉並区にとってがん対策を強化することは、区民の命と健康を守るために優先的に取り組まなければならない最重要課題の一つであると考えます。本日は、できるだけ患者及びその家族の目線に立って、さまざまな角度から質問をさせていただきたいと思います。
 まず、がん対策における本区の役割について伺います。
 平成十八年にがん対策基本法が成立し、我が国においても本格的ながん対策が開始されました。国のがん対策推進基本計画、東京都においてもがん対策推進計画が策定され、がんにより死亡する人の数の減少と、すべてのがん患者及びその家族の苦痛の軽減並びに療養生活の質の維持向上という向こう十年間の全体目標に向かって、国や都における対策が進められるようになりました。
 東京都の推進計画には、都は、予防、早期発見、医療体制、情報提供、普及啓発を総合的に進め、区市町村はがん予防を推進、特に生活習慣の改善、がん検診受診率の向上と検診の精度管理が役割であると記載されています。この記述は、現在の都区の役割、二次保健医療圏の機能等を勘案し、東京都の理解で定義したものと推測します。
 では、区としての主体的な考えはいかがでしょうか。基礎的自治体としての杉並区のがん対策に対する役割、責務について区はどのように自覚をされているのか、お聞かせください。

がん対策の現状把握、予防と子宮頸がんワクチン接種

中村 康弘

 次に、区の現状把握について伺います。
 がんに関する情報については、国や都はがん登録の制度を開始し、医学的なデータの収集に取り組み始めています。しかし、医学的な目的のためのデータだけではなく、がん患者及び家族の実体験を通して、現在不足しているものは何か、がん検診の受診率はどのように推移しているのか、区民のがんへの罹患状況、地域の医療体制や療養生活に対する満足度、がんに対する知識、予防、生活習慣など、杉並区の地域的な特徴や課題は現状どのようになっているのか。今後、区がこのようなデータを把握し、がん対策に関する政策の有効性を検証するPDCAサイクルの基礎としていくことは、非常に有益であると考えます。そのためにも、包括的ながんの現状調査を行うことについて、区はどのような認識をお持ちでしょうか。
 がんの予防に関して伺います。
 私たちはがん大国の国民であるにもかかわらず、実はがんに関しては余り詳しく知らないと言われています。がん家系などの言葉のように、がんは遺伝すると理解されていることもありますが、実は遺伝によるがんは五%程度であり、むしろ喫煙、食生活や日ごろの運動等、生活習慣によるところが大きいそうです。バランスのよい栄養、たばこは吸わない、食べ過ぎを避け脂肪は控え目になど、日常生活でしっかりと管理すれば、がんの約六〇%が防げるとも言われています。このようにがんの原因や予防法に関する正しい知識を持つことが大切であると思いますが、そのような情報の提供、普及啓発について、現在、区はどのような取り組みをされているのでしょうか。
 がん予防の一つとして、子宮頸がんワクチン接種の公費助成に関しても伺います。
 本区は、子宮頸がんワクチン接種の中学校一年生までの全額助成を行い、この七月から接種が始まっています。ワクチン助成については、当時、全国でも五十万規模の大都市では初めてであり、二十三区で初というニュースに、大変な反響がありました。本区が先鞭をつけた形にもなり、現在では全国でも多くの自治体がワクチン接種助成を行っています。二十三区においても、渋谷区、江戸川区、江東区、中央区などが実施を進めています。
 このような動向に関し、区民の皆様から、杉並区の迅速な取り組みを評価する声が大きい一方、中学校一年生だけではなく、対象年齢の拡充を要望する声も日に日に大きくなっているように感じます。国においても、厚生労働省が自治体のワクチン接種費用の三分の一を国庫補助するべく、その事業予算百五十億円を概算要求に計上しています。
 このように子宮頸がん対策の拡充への機運が全国的にも高まっている中で、区として、今後、助成対象年齢を拡充する考えはおありでしょうか、所見を伺います。

がん検診受診率向上と精度管理の強化

中村 康弘

 次に、がん検診について、特に受診率と精度管理に関して質問をいたします。
 予防とともに、がんは早期発見・早期治療が大切であり、そのために検診を適切に受けることは極めて重要であります。日本人のがん検診受診率は、男性で約三〇%、女性で二〇%台前半が現状であり、おおむね七〇%以上の欧米諸国と比べて極めて低い。これをどのようにして五〇%以上へ引き上げるかということが目標であり、大きな課題となっています。
 受診率といっても、区民が検診を受ける場面としては、区が実施しているがん検診、勤務先での職域検診、個人的に受ける検診、そして体調不良や異常を感じて受ける検診、理論的にはこれら四つの場面で実際に受けられた方の合計の率が受診率となると考えられます。しかし、区が正確に人数を把握しているのは区の実施検診のみであり、それ以外の場面での受診者数を把握するには、区レベルでは、住民アンケート等から推計値を出す以外にないというのが現状であります。先ほど、がんについての包括的な調査を行うことを提案いたしましたが、正確な受診率の把握という側面においても調査の必要性を指摘しますが、所見をお聞かせください。
 一方で、区が実施しているがん検診の受診率については、ことしの予算特別委員会で私が質問した際に区から受けた答弁では、二十年度の数字として、胃がん一・八%、肺がん〇・六%、子宮がん一〇・八%、乳がん一三・一%、大腸がん二七・九%と、大腸がん以外は非常に低いレベルとなっています。改めて、区民の低い検診率の理由、また向上のための対策は何か、お答えください。
 検診費用について、現在本区では、大腸がん検査で二百円、前立腺がん検査で七百円、それ以外は千円の自己負担で実施しています。しかし、現在検診を無料にしている自治体でもそれほど受診率が高いわけではなく、費用負担の問題だけで受診率が目覚ましく向上するとは考えにくい。
 特定非営利活動法人日本医療政策機構が行った「患者が求めるがん対策~1600人のがん患者意識調査~」によりますと、がん検診を受けない理由のトップは、「必要性を感じなかった」だそうです。実際に私の周りにも、忙しくて時間がないからとか、面倒くさいからなどの理由で受けてない人がいました。
 そのような中で、予算委員会の席でも紹介しましたが、豊島区が、区の特定健診、後期高齢者健診の受診者に受診券を郵送する際、今年度からがん検診の申込書を同封し、結果、現在の受診率が前年度の一・六倍に向上したという事例もあります。本区も試してみてはどうかと考えますが、所見をお聞かせください。
 一方で、昨年度、今年度と実施し、好評を博している女性のための乳がん、子宮頸がんの検診無料クーポン券事業ですが、これは、費用負担の軽減だけではなく、個々に対する直接の勧奨という意図もあります。先日の医療問題調査特別委員会委員長報告でも、本事業の実績についての報告がございましたが、改めて、この事業についてどのような効果があると区は分析されていますでしょうか。
 また、現在は五歳刻みで配付されているため、最低五年間は継続するべきだと考えますが、区の所見を伺います。
 また、クーポン券事業においては、男性の働き盛りの世代ががんで倒れることにより、家庭や社会がこうむる影響は多大なものであり、こういった方々に対するアプローチとしても、本事業を試してみる価値があるのではないかと考えます。例えば四十歳代の男性に対する大腸がん検診クーポン券の発行事業など、いかがでしょうか。
 いずれにしても、受診率の向上については各自治体も苦戦しているのが現状であり、短期間で成果を出すというよりは、費用負担の件も含めて、必要性を感じるための普及啓発、ターゲットを絞った検診の呼びかけ等、多角的に粘り強く進めていく必要があると思われます。
 がん検診の精度管理の体制についても伺います。
 要精密検査率、要精検率と呼ばれていますが、これは、検診を受けた方のうちで、がん等の疑いがあるため精密検査が必要と判定された方の比率のことです。要精検率が高い場合には、精密検査が本来では必要ないのに要精検と判定されてしまっている可能性があり、逆に低い場合には、がんを早期発見できていないという可能性があります。このような問題については、区のがん検診精度管理委員会が区実施の検診の精度管理について協議をしています。
 現在の本区における要精検率はどのような状態にあるのでしょうか。管理委員会での議論の内容について概略をお示しください。
 一方で、要精検と判定された方が、その後実際に受けているのか、ほったらかしになっていないか、区は、その後の状況の追跡調査やフォローの体制はどのようにとられているのでしょうか。

がん治療における地域医療体制の偏在解消

中村 康弘

 次に、がん治療における地域医療体制について伺います。
 医療施設の整備に関しては、二次保健医療圏ごとに行われており、本区が所属する区西部保健医療圏内における地域医療の体制については、本年三月に杉並区地域医療体制に関する調査検討委員会の報告書に詳細に報告をされています。その内容に沿って、がん治療という角度で質問をさせていただきます。
 報告書では、地域における現在の医療機関の整備状況を分析した上で、区内には、がん診療の連携拠点病院や東京都のがん治療認定病院、すなわち、がんの専門的な医療機関が存在せず、医療圏内ではすべて都心部に集中しているという点が指摘されています。そして、例えば杉並、世田谷、練馬の三区を南北軸で見た場合には、人口二百万人を超える地域にもかかわらず、がん診療連携拠点病院が一施設も存在していないという状況があります。このことに対し、報告書では、区としても医療資源の偏在を解消する働きかけを東京都に対して積極的に行っていくべきであると提言しています。区は、この提言を受けて、がん診療連携拠点病院等の偏在解消の必要性についてどのようなお考えでしょうか、区の見解を求めます。

在宅医療・在宅緩和ケアの推進と相談窓口設置

中村 康弘

 次に、在宅医療、在宅緩和ケアについて伺います。
 住みなれた我が家で家族に囲まれて最期の時を迎えたい、多くのがん患者がこのような願いがある中で、現実には、在宅で死を迎える人はわずか一二%にとどまっているとの厚生労働省の調査があります。そこには、在宅医療をサポートする体制強化の必要性が浮き彫りになっています。
 がんは身体的及び精神的な苦痛をもたらします。緩和ケアとは、がんの痛みはもちろん、治療に伴う痛み、そして不安感や恐怖心など、すべてにわたる苦痛の緩和を治療と並行して行っていくことであります。そしてがんにかかっても、QOL、生活の質をできるだけ落とさないために、緩和ケアの重要性がいや増して注目されています。こうした緩和ケアが、病院だけではなく在宅でも充実できれば、がんの痛みや苦しみを抑えながら、やっておきたいことをやり、家族と一緒に人生の総仕上げに思う存分取り組むことができます。
 在宅医療に関しては、本区はその支援体制を充実し、在宅療養生活の質の向上を目標の一つとして掲げています。また、区内には現在二つの緩和ケア病棟、四十の病床があり、その数は二十三区中二番目に多いという特徴があります。このような地域医療資源の特徴を生かして、在宅緩和ケアにおける全国の先進モデルとなるような取り組みを目指してはどうかと考えますが、所見をお聞かせ願います。
 現状認識として、地域での在宅療養支援の診療所、訪問看護ステーション、かかりつけ医、歯科医、薬局、地域包括支援センター等、医療、看護、福祉などの地域の関係機関間の連携システムはどのように構築されているのか。また、綿密なネットワーク体制に向けてどのような取り組みや支援体制が望まれているのでしょうか。
 在宅ケアを行う際に患者や家族の多くが不安に感じるのは、容体急変時の対応だそうですが、容体急変時の受け入れ確保体制、すなわち後方支援病床について、現状及びその強化策の方向性について、区の認識を伺います。
 以上のことを勘案して、医療や介護、その他在宅医療に必要なことについていつでも相談できる、二十四時間対応の在宅緩和ケア支援相談窓口の設置については、区はどのようなお考えをお持ちでしょうか。

がん患者と家族への経済的・精神的サポート拡充、がん対策体制整備

中村 康弘

 次に、患者及び家族に対しての側面的サポート体制について伺います。
 いざがんになると、入院治療により医療費がかさむ一方で、仕事の関係上収入が急激に減り、一気に経済的に窮地に陥ってしまうという事態にもなりかねません。さきの千六百人のがん患者意識調査では、七〇%以上の方が経済的な負担を感じており、全回答者の七%が、経済的な負担が原因で治療を断念したり、最も受けたい治療をあきらめるなどしたと回答しています。さらには、退院後の通院に要する交通費、療養や再発予防のためなどにも多くの費用がかかります。大きな家計の負担に直面するがん患者や家族に対して、融資や助成制度など、今後一層の経済的支援策の拡充が望まれると考えますが、区の所見をお聞かせください。
 さらには、がんで入院した際、高額療養費の限度額申請や介護保険の申請、また、場合によっては障害者認定などの行政手続が必要になるでしょう。しかし、なかなかこのような制度に関しては、ふだん利用していない患者や家族にとっては、制度の存在すら知らない、また、ふなれな手続が負担になるということも考えられます。
 一方で、精神面についても大きな負担がのしかかります。質問の冒頭で紹介した阿南さんなどのように、患者本人のみならず、家族にとっても、経験した人でなければわからない苦しみも甚大なものであると思います。
 今述べたようなさまざまな行政情報や医療相談、精神的な相談に対しても寄り添うようなサポート体制があれば、大変助かると思います。先ほどの在宅医療相談窓口と関連して、がんの総合相談窓口、がんにかかった場合の不安に対してあらゆる側面からの入り口となるトータル相談窓口です。そのようなサービスの展開について、区はどのようにお考えでしょうか。
 これまで具体的な点をさまざまお聞きしましたが、最後に、区のがん対策への体制整備についてお伺いします。
 全国でこれまで十県二市において、がん対策推進条例が制定されてきました。その中で、この夏視察で伺わせていただいた愛媛県では、四十七名の県会議員のうち四十一名が参加しているがん議連による議員提出で、愛媛県がん対策推進条例が制定されました。条例の制定にあわせて、県のがん対策に関する予算が前年度から二倍以上に拡充し、現在、患者、行政、議会、医療提供者、民間企業、マスコミによる六位一体のスローガンのもと、がん対策に県を挙げて全力で取り組んでいます。
 また、都内においても、豊島区では、区長が本部長を務める庁内横断型のがん対策推進本部をことし設置し、東京では初めてとなるがん対策推進条例の来年度の制定を目指しています。条例の制定は、それ自体が目的ではありませんが、その自治体の意思の表明であると思います。
 身近な人ががんになった、ここにいる皆さんの多くも同様の経験をされているのではないでしょうか。私も十数年前に母親をがんで亡くしました。また、父親もがんのサバイバーであります。地域においても、私の周りには今もがんと闘っている人が少なからずいます。がん対策は、多くの区民の命にかかわる喫緊の課題であります。したがいまして、区としてがんと闘う区民を全面的に支援していただきたい。いや、区自身ががんと闘うべく立ち上がってもらいたい。
 これまで述べてきたような個々の政策を集約し、総合化された政策として展開していくことを区に提案したいと思います。例えば杉並区がん対策緊急プランなど、この体制の整備や対策の強化に早急に取りかかり、政策の拡充、充実を進めてはどうか、このことについての区の見解をお聞きして、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。

答弁

副議長(渡辺富士雄議員)

理事者の答弁を求めます。
 区長。
     〔区長(田中 良)登壇〕