災害時要援護者支援:個人情報保護と人命救助の均衡
杉並区議会公明党の一員として、通告に従い、災害時要援護者支援について質問いたします。
この夏、会派の有志議員とともに、淡路島の北淡震災記念公園に視察に行ってまいりました。震源地付近の断層を初め、震災当時の多くの展示や説明に触れ、18年前に発生した震度7がいかにすさまじいものであったか、大きな衝撃を受けました。この地域は現在では合併して淡路市となっていますが、震災が発生した当時は、人口約1万人の北淡町という小さな町でした。残念ながら町内で37名の方が亡くなり、全壊家屋734戸、半壊711戸という被害が発生しました。
しかし、驚くべきは、消防団と地域の方々が協力して、倒壊家屋に埋もれた人々を300名以上自力で救出、震災当日の午後4時52分には町内全域の救出作業が終了し、行方不明者ゼロを確認することができたというのです。当時、自らも被災しながら救出作業に当たられた方からお話を伺う機会がありました。このうちの1階の角の部屋におばあちゃんが寝ている、この建物の2階に子どもたちの部屋がある等々、被災箇所に関する具体的な情報を皆で共有したことで、救出作業と所在確認が効率的に行われたとのことでした。平常時からの地域の情報の把握と共有が災害時に人命を守るためにいかに重要であるか、改めて実感をいたしました。
災害時要援護者支援と個人情報保護の関係について伺います。
災害時要援護者対策に関しては、基本的人権、プライバシーという観点からの個人情報の保護と、人命の救助、保護とのバランスが基本となっています。さきの通常国会で災害対策基本法が改正され、災害時要援護者の避難対策における個人情報の取り扱いが明確になりました。要援護者名簿の作成が市区町村に義務づけられ、本人からの同意を得たものは、平常時でも消防機関や民生委員等の避難支援関係者に情報提供でき、発災時には、本人の同意がなくとも名簿情報が提供できることなどが定められました。これらについては本区では既に取り組まれているところではありますが、まだ体制が十分にとられていない自治体も多くある中で、法制化されたことにより、全国的に名簿の整備と情報提供が大きく進むものと期待されています。
このたびの災害対策基本法の改正では、人命保護の重要性がより強調されたと思います。個人情報と災害時の人命保護とのバランスについて、区の考えを改めて伺います。また、このたびの法改正に対する区の評価も、あわせてお聞きしたいと思います。
本区の個人情報保護条例では、区民の生命、健康または財産に対する危険を避けるため、緊急かつやむを得ないと認められるときには、個人に関する情報の目的外利用や外部への提供などが可能であるという例外規定が設けられています。その上で、要援護者支援の体制については、区役所の福祉関係部局が保有する個人情報を収集した名簿を避難支援関係機関にも提供する情報共有方式、そしてその名簿に基づく要援護者本人に対する個別勧奨を経て本人の同意を受ける同意方式と、本人の自発的な意思に基づく手挙げ方式により、地域のたすけあいネットワーク(地域の手)への登録を行い、登録者台帳による個別の避難支援プランを策定するという3つの方式の段階的な運用による支援体制が組まれています。
課題は、いかに多くの対象者を台帳に登録し、ネットワークのシステムに乗せ、平常時より入念に準備をしておくかであります。手挙げ方式や同意方式のみでは、申し込みのタイミングを逸してしまった、あるいは制度そのものに対する理解が乏しいため申請されていないなどという理由により、真に支援が必要であるにもかかわらず、台帳に未登録という状況が起こり得ます。実際にたすけあいネットワークも、対象者原簿に対してまだ半分以上の方が未登録となっています。
これらの課題に対して先駆的な取り組みを行っている自治体があります。同じくこの夏に震災対策に関する視察で訪れた神戸市では、議員提出により成立した神戸市における災害時の要援護者への支援に関する条例が、ことし4月から施行されています。同条例では、要援護者に関する情報の平常時における外部提供について、本人の同意を求めた場合において、本人による不同意の意思が明示されなかったときは、本人の同意を得ているものと推定するという規定が設けられました。支援が必要な方に半ば強引に手を届けていこうという考えであります。今後運用していく段階においては、複数回にわたる確認作業や、さらには家庭訪問を通して直接本人とやりとりを行いながら丁寧に進めていくとのことです。
同様に、横浜市においても震災対策条例施行規則が改正され、地域の自主防災組織が日ごろから要援護者を把握する方法として、これまでの手挙げ方式や同意方式に加えて、本人からの拒否の意思表示がない限り、市から個人情報の提供を受けられるという共有方式も選択できるようになりました。こちらも、情報がなければ動くに動けないという地域の課題に対しての対応策であります。
行政としての責任をより鮮明に打ち出したとも言えるこのような横浜市や神戸市の取り組みは十分検討に値すると考えますが、区はどのような感想をお持ちか、お聞かせください。
地域たすけあいネットワーク制度の見直しと在宅避難原則化
続きまして、地域のたすけあいネットワーク(地域の手)の制度の見直しについて伺います。
この制度は平成12年度に手挙げ方式で開始し、先ほど申し上げた未登録者に対する積極的な登録勧奨、個別避難支援プランの作成、震災救援所運営連絡会における避難支援計画の策定など、制度の充実が進められ、現在のシステムに至っております。直近の9月では8,303名の登録者数となっております。
昨年来、区の災害時要援護者支援対策協議会で制度の見直しが行われてきており、近日中に正式なまとめが発表される予定です。見直しの基本的な考え方については、震災救援所への避難を原則とする考え方から、自宅が火災や建物倒壊等の危険性のある場合を除き、在宅避難生活を原則とするとの考え方に転換を図るというものです。これは大変大きな方針転換と言えるでしょう。
災害時要援護者対策協議会における議論の中で、現行の制度内容についてどのような課題が指摘されてきたのでしょうか。そしてこのたびの基本的な考え方の転換はどのように導き出されてきたのか、ご説明をいただきたいと思います。
在宅避難が原則となると、家屋の防火や耐震化、屋内家具の危険度といった生活環境に関するハード面の情報が個別プランに新たに必要となるでしょう。また、備蓄品の整備、福祉専門員の派遣、電気、水道、ガス等のライフラインに支障が生じたときの対応など、ソフト面で支援する事業の整備も急がれます。避難所への移動、避難が基本となっている現状の個別プランが抜本的に見直されることになるのであれば、変更の旨を要援護者本人や支援者側にも周知徹底をしていかなければならないと思います。方針転換に伴い関連事業を新設あるいは見直しを行うなどの対策、そして当事者に対する周知等について、区は今後どのように進めていくおつもりでしょうか。早急な取り組みが必要であると思いますが、現段階で考え得るタイムスケジュールも、あわせてお示しいただきたいと思います。
福祉救援所の整備拡充と災害時運用計画
次に、福祉救援所について伺います。
東日本大震災で被災したある婦人は、以前より脳梗塞による左半身麻痺の障害があり、車椅子の生活をしていました。その方はベッドがなくては車椅子からおりることができないのですが、避難した震災救援所には布団しかありませんでした。周囲の方は大丈夫ですかと声をかけてくれるものの、彼女は遠慮して大丈夫じゃないとは言えず、結局2週間車椅子からおりることができなかった。その間まともに眠ることができず、ただ家に帰りたいと願うのみだったとのお話を伺いました。
身体等の状況に配慮した福祉救援所の整備は、質量ともに充実をさせていかなければなりません。本区の現行の地域防災計画では、震災救援所での生活が極めて困難な人は済美養護学校か地域区民センターの第二次救援所に、さらにそこでの生活も困難な場合は、専門性の高い支援が受けられる福祉救援所に移動することとなっています。福祉救援所の開設場所としては、現状8つの社会福祉法人の施設10カ所と協定が結ばれており、さらには区立の障害者通所施設4カ所がこのたび指定されました。区の実行計画では、26年度までに入所施設15所、通所施設12所、合計で27所まで整備することとなっています。
神戸市では福祉救援所に関する取り組みについても伺ってきました。ちなみに名称と定義に関して、神戸市では、本区における第二次救援所と福祉救援所に相当するものをあわせて一くくりに福祉避難所と呼んでいます。ここでいう、本区でいうところの福祉救援所についての同市の取り組みを紹介させていただきます。
神戸市は、市の老人福祉施設連盟と協定を結び、特別養護老人ホームなど市内の社会福祉施設106カ所を福祉救援所として活用することを計画しています。9割以上が民間の施設ですが、それぞれの施設より要援護者の収容可能人数等を含む計画が提出されており、現状では全体で約3,500人の収容が可能と試算しています。協定では、発災時に福祉救援所として開設するため、できる限り市の要請を受け入れることとされ、生活支援員の確保を含む受け入れ体制を施設側が行うことも明記をされています。
本区の福祉救援所の配置計画につきましても、単に施設数だけの目標にとどまらず、施設ごとの収容計画、人の手配、その上で予測される需要を把握して、どの程度対応が可能な状況なのか明確な計画を立てる必要があると考えますが、いかがでしょうか。
あわせて、二次救援所と福祉救援所に移動される対象者についても、ある程度の基準や優先順位を定めておくことで、仮に定員がいっぱいになり、トリアージの作業が必要となった場合でも、より混乱が回避できるのではないでしょうか、所見を伺います。
神戸市は150万人の人口に対して106施設、本区では約3分の1の人口で、現状10施設プラス4カ所の通所施設。単純に施設の数だけで比較するものではないでしょうが、やはり絶対数としても少ないと思います。神戸市では、今は民間のホテルとも福祉救援所の協定に着手をしており、さらなる救援所の開所先の確保に努めています。本区においては、通所施設や認知症高齢者のグループホーム等の区内の民間の福祉施設、あるいは宿泊施設なども含め、福祉救援所の絶対数の確保にも努めていただきたいと思いますが、所見を伺います。
地域包括支援と多様な担い手による要援護者支援
続きまして、地域包括支援サービスの活用あるいは他の多様な担い手による要援護者支援について伺います。
要援護者を支援する人々の輪を広げ、より多くの担い手を糾合することが肝要であることは言うに及びません。現状は、民生委員、児童委員や町会のメンバーが兼務している自主防災組織が中心となって地域における支援体制がとられています。大多数の方々は使命感に燃えて日ごろよりご尽力をいただいておりますが、現実には民生児童委員、町会役員への負担は大きいものとなっています。民生児童委員は地域のたすけあいネットワークで1人当たり平均20人以上のケースを抱えており、また、欠員の地域もあるため、個別プランは全体で8割程度の作成にとどまっているのが現状です。
そこで、地域の実情をよく知り、高齢者や障害者とも日ごろよりつながりのある商店会や事業者、あるいは平日の昼間に発災する可能性も考慮すると、昼間人口が少ない本区では、地元の中学生も大きな力になるのではないでしょうか。このように多様な地域の力を平常時より糾合していく体制が必要と考えますが、区はどのように考えておられるのでしょうか。
とりわけ地域包括支援の福祉ネットワークを、平常時だけではなく、災害時でもより活用できる体制へと進めていく必要があると考えます。現行では、障害者自立生活支援センターの職員とともに、地域包括支援センターの職員も避難支援コーディネーターとして個別避難支援プランの作成に民生児童委員に同行することとされています。同センターは、地域における見守り、孤独死防止、日常的な地域の支え合いを強化する地域ネットワークづくりを担っており、その機能や蓄積している情報等を災害時にも活用することで効果的な対策が立てられると思います。
しかし、ケア24の職員のみでは人員にも限りがあります。要援護者の生活実態をよく把握しているのは、日常的に訪問介護を行っているホームヘルパーやケアマネジャーであります。在宅での避難という新たな方針も考慮し、また、日ごろより顔の見える人間関係ができているため、とっさのときにもさまざまなコミュニケーションがとりやすいという利点もあります。実際、東日本大震災では、ヘルパー事業者が自分たちの利用者名簿をもとに安否確認や避難誘導に活躍されたという事例が多数あったとの報告があります。平常時からのしっかりとした見守り体制があってこそ、混乱のさなかにおける災害時の支援活動が実効的なものになると考えます。区の所見はいかがでしょうか。
そのような問題意識から、例えばケアマネジャー等にも個別避難支援プランの作成にもかかわっていただくなど、その機能、人的資源、ネットワークを災害時も最大限活用できる体制へと平常時より整備していくことは有益であると考えますが、いかがでしょうか。
また、例えば地域のたすけあいネットワーク(地域の目)の制度のもとにあるあんしん協力員やあんしん協力機関で我こそはとの意思のある方には、災害時の支援にもご協力をいただく呼びかけを行うことも検討されてはいかがでしょうか。
東日本大震災では、緒方貞子氏やアマルティア・セン・ハーバード大教授などの唱える人間の安全保障という概念が改めて注目をされました。すなわち、紛争や災害等、人々の生命や生活を脅かす現象から1人1人の命の尊厳や生活を守るため、あらゆる場面で人間を中心とした対策を講じるという視点です。まさに災害時要援護者支援策は、地域における人間の安全保障を進めるアプローチであると思います。区の対策のさらなる充実をご期待申し上げ、私の質問を終わります。
ありがとうございました。
答弁
理事者の答弁を求めます。
区長。
〔区長(田中 良)登壇〕